黒爺のハーフボイルドな71年

黒爺の食い散らかしの恥 書き捨て

ららら科學の子@矢作俊彦


これを現代版浦島太郎と呼ぶ向きもあるが違う。無理に例えるならば、おそらく逆「砂の女」と言うべきだろう。  主人公の彼は新宿駅が燃えるのを目撃している。オレより2歳上だ。この差は大きい。バリストの構内で毎日が集会とデモに明け暮れた世代と岡山から馳せ参じてみるとすでに内ゲバ全盛で怖いったらありゃしない世代とは決定的に違う。学生運動の最中思わぬ事件で文革まっただ中の中国に密航する羽目になった彼は、30年間中国の片田舎で暮らす。その彼が再び密航して帰ってくる場面からはじまる。新幹線は知っているが自動改札にとまどい、市外局番の変更はもちろん携帯も知らない。長嶋と王が別のチームで監督だったとか阪神が優勝したなど想像だにしなかったのである。この辺は今浦島だが、開けるべき玉手箱は持っていなかった。彼が再び飛び立つのは「成田」という皮肉。60年代後半から70年代を懐かしく想う世代にはうってつけの物語である。