ストーンズから消えた男
ブライアン・ジョーンズとローリングストーンズの知識がないまま観た人がいたら、その方には不幸な選択だっと言わざるを得ない。その意味ではきわめて不親切で不完全な映画だ。
ストーンズの歴史を大まかに2つに分けるとしたらブライアンの死以前と以後である。ストーンズ体験が何時かによってこの映画の評価は別れるだろう。ブライアンの活躍を知る者にとっては納得7割疑問3割だろうし、ミック・テーラー以後のファンならストーンズがコケにされていると思うかもしれない。ブライアンの死は謎が多い。事故死扱いになったが他殺説が未だに残っている。
ビートルズはアメリカで大成功をおさめてた。ストーンズもアメリカに行きたいがブライアンに入国許可がおりない。麻薬の前科があり女性問題で訴訟をいくつも抱えていたからだ。そのためブライアン抜きで音楽活動をしていたがそれも限界がある。結局ブライアンを首にすることでストーンズはやっかいものからオサラバする。当時のスィンギングロンドンそのままの派手なファッションのブライアンはストーンズの創始者でリーダーで一番人気があり、ジミヘンからオファーがあったりその才能は誰もが認めるものであった。他殺説にはミックがブライアンの才能に嫉妬したというのが最も根強い。
映画ではレコード会社の依頼で身の回りの世話をしていた男(大工)が言い争いの末発作的に殺したように描いているが、木陰からその様子を見ているミック達の姿が幻影のように映る。これには納得がいかん。映画ではその男とミックには接点がないのだ。クビはミックの独断ではなく会社の強い意向で行われたように描いているし、事件は突発的に起こっており仕組まれたものではない。そこに暗示的な映像を挿入した意図がわからん。観客が混乱するだけである。
見終わって気が付くが映画の主人公はこの大工なのだ。家の修理をしながら食事を作ったり話し相手になって徐々にうち解けていきブライアンには無くてはならない存在になる。が、しょせん大工とスーパースターである。対等の友人にはなれないし、会社からは麻薬から抜けられない管理責任を問われ板挟みになる。彼にはクビになったブライアンの苦悩がよくわかっているだけに、ますます傲慢になっていく姿に心を痛める。そのあげくの事件ともいえるし事故のようにも見える。エンドロールで1993年彼が死ぬ直前に自分がブライアンを殺したと告白したとクレジットされるが、その真意はわからない。ブライアンを自堕落な生活から救えなかった自責の念かもしれない。