黒爺のハーフボイルドな71年

黒爺の食い散らかしの恥 書き捨て

人間ポンプ

見世物家業−安田里美一代記  新宿書房

人間ポンプとは、いまはもう見ることはなくなった見世物小屋の芸の一つ。ガソリンを口に含み吹き出して火をつける。危険この上ない芸である。見世物小屋というのは、お祭りや縁日に小屋やテントを仮設してのぞきカラクリ(地獄絵や戦記物)、マジック、ストリップ、曲芸、コミック、クモ女とかカニ男、タコ娘などの因果ものの興業である。1980年代の終わり頃まではえべっさんや生田神社に出ていたらしい。
人間ポンプは数個の碁石を飲み込んで黒といわれれば黒い碁石を取り出す、胃の中の金魚を釣り竿でつり上げる、飲み込んだ50円玉に鎖を通す等何でも飲み込んでお客のリクエストに応えてはき出す。巧みな話術と所作でお客を笑わせながらクライマックスがガソリン吹きである。このショウを一度だけテレビで観たことがある。ドぉーンという音と共にすざまじい火焔が吹き出るのである。人間ポンプは一礼して平然と退場、ステージにはこぼれたガソリンがボッボッとくすぶるのをすかさず弟子がモップで火を消す。ホンマにこんな人がおるん?と思ったな。
見世物小屋にはこんな本物の芸のほかに「金を包む風呂敷」や「一寸法師の船と櫂」という口上に釣られて入場すると、長い越中ふんどしや椀と箸が置いてある詐欺みたいなのもある。これは騙されるのを楽しむのだろうな。クモ女とかは「親の因果が子に報い〜〜」ちゅう奴やね。カラクリから顔を出しているだけなんだけど手足は動くし後に廻って背中側も見られるくらい複雑な仕組みになっている。さらに照明や効果音を使ってそれらしく見せてるのが芸だね。中には、天秤棒の一方に提灯他方に釣鐘が下げてあって平衡がとれている。提灯も釣鐘も触れてみて本物なのに、という科学の法則を逆手に取ったものもあって興味深い。もちろんタネはある。
人間ポンプ安田里美さんは1995年亡くなっている。後継者がいるかどうか捜してみなきゃね。お正月どこかに見世物小屋がでていれば観たいものだ。