黒爺のハーフボイルドな71年

黒爺の食い散らかしの恥 書き捨て

悪人

腹が立ったり追いつめられたりして何かに八つ当たりすることはあっても殺人までは到達しない。だが彼はしてしまった。短絡的内向的な性格で一時の激情とはいえ最悪の結果であった。
閉塞感、主人公のみならず登場人物の誰もがそれぞれ持っている。映像的には雨である。雨の中主人公の自首を止めた女のクラクションで切ない逃避行がはじまる。これで雨のシーンは終わる。最後主人公は女を殺そうとする。このシーンは人を殺す人の優しさに溢れている。女はこれで救われるのだ。
人はたまたま人を殺すことなく生きていることを実感した。
樹木希林の眼力に圧倒的された。自分が育てた孫が殺人を犯したやるせなさと忸怩たる想いが眼の奥に秘められている。そして彼女の救いはバスの運転手からかけられた「あんた(が)しっかりせんと」の一言。このシーンで泣いてしまった。
ただ個人的には「出会い系」がどんなものか知らないのでその点でのリアリティーと共感度は低くなるが、それによってこの映画の評価が下がることではない。
昔「出会い系」といえばハント・バーとか喫茶があってナンパしたい男とナンパされたい女が出会う場所があったらしい。僕が上京した1971年頃はあったのかなかったのか、小説の中でしか知らない。あったとしてもよほどの手練れでないと踏み込めない場所だったろう。それがいまは携帯電話でできるそうな。今も昔も寂しい人は多い。「寂しいの?」と言葉をかけられて否定できる人は少ないだろう。心のシンをつかまれた気になる。それが好みの異性なら格別に。